理想の食卓

丸い食卓

3人で会議や食事をするとき、先の2人がテーブルを挟んで対面に座ってしまい、さて自分はどちら側に座ろうかと、とまどった経験がありませんか?心理学的には、好きな人の隣、嫌いな人の向かいに座るという結果になるそうです。四角いテーブルでは、あちらとこちらの対立の構図がどうしても出来てしまい、ドラマの離婚シーンや外国との交渉場面などは、その典型的な例ですね。一方、国連や欧州会議では円卓テーブルを採用しますが、これは参加国が平等であるという思想を形で示している例です。
 ところで、食卓の形からは時代の背景が見えてきます。江戸時代は、家族間に厳格な上下関係がありました。お父上は「尾頭付き」といった具合に、お皿や料理もしっかりと格付けされ、それぞれが自分専用の「お膳」で食事をしていました。 明治に入って身分平等という考えが広まって登場したのがちゃぶ台です。実はちゃぶ台、みんなで卓を囲む西洋思想と床に座る和式を合体させた、「和洋折衷型」として全国に広まってい
きました。そして昭和30年代には団地が登場します。 狭い部屋でも何とか座れるように、しかたなく四角くなって壁にくっつけられたダイニングテーブルですが、次第に多くの人がその団地スタイルに憧れるようになり、今ではすっかり食卓の定番になりました。
 さて、写真は丸い食卓です。ブラジルの建築家アドルフに「食卓は必ず、直径110cm の丸にしなさい」と言われ、だいぶ探し回って見つけました。人数に関係なく、何人でも座れるのが魅力で、これまでの最高は7人。しかし何といっても、「側や対立」の構図が生じない点が、一番のお気に入り。不思議なことに、家族で同じおかずをつついていると、何ともいえない一体感が‥‥‥‥。私は最近、この変哲もない丸テーブルが、子供たちの心理にじわじわと効いているような気がしています。
(建築士会 横浜支部 寄稿文) 

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