建築家。千利休

手の形両手で包む形      大黒 大黒


 抹茶の量にくらべ、茶道の茶碗は大きすぎる、と感じたことがありませんか?
 千利休という人は、シンプルな物事が好みだったようです。当時、ロクロは普及していましたが、彼が追い求めたのは「手練り」でした。おにぎりやお寿司の形が、手の大きさとその動きから決まるように、両手で練りあげて創る茶碗は、親指が内側の深さ、残りの指が外輪、と自然にあの形状に落ち着きます。瓦職人の長次郎に焼かせた茶碗は、その後「樂焼」と呼ばれ、現在まで受け継がれました。
 利休が特にこだわったこと。それは内底の丸みでした。鮮やかな緑の液体を飲み干す瞬間、顔は茶碗で覆われ目は内底だけを見る状態になりますが、利休はそのとき、宇宙のような闇の広がりを客人に感じてもらおうと考えました。さっそく長次郎を呼んで、内底の入隅を念入りに丸めて、奥行き感を消失させる工夫を要求します。
 実は建築でも、利休は同じ手法を使っています。茶室待庵では、床の間の壁を黒く塗りコーナーを丸く面取って、その奥に黒い世界を広げようと試みました。 下の写真では、その効果のために、掛け軸が浮遊して見えています。
(建築士会 横浜支部便り)  
 
待庵 待庵  

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